シワ研究

細胞の動きを活性化し
抗しわ効果を発揮する
アンチエイジング成分

本サイトで掲載している情報は、一般的な素材にも含まれる成分に関する学術研究成果です。特定の効果を保証するものではありません。本研究成果は限られた条件での成果です。

1. 研究ダイジェスト

  • 化粧品に使用されるアンチエイジング成分が線維芽細胞の形態や挙動に対して与える作用を、立体的な観察ができる顕微鏡を用いて調べました。
  • シミ対策成分トラネキサム酸に、線維芽細胞の遊走速度(動く速さ)を高める効果があることを発見しました。(図1) 
  • シワ改善成分ナイアシンアミドは、線維芽細胞の移動距離を伸ばすとともに、細胞遊走の方向性(細胞の動く向き)を制御することでシワ改善効果を発揮している可能性があることが分かりました。
図1:皮膚における細胞の動きのイメージ

2. 研究の背景

 皮膚は、表皮、真皮、皮下組織という構造からなり、中でも真皮にはコラーゲン線維やエラスチン線維などのハリ・弾力を生み出す成分が豊富に存在する重要な組織です。これらの線維は、真皮に存在している線維芽細胞でつくられていますが、加齢とともに線維芽細胞のはたらきが弱まり、コラーゲン線維などの生成量は少なくなります。また、紫外線はコラーゲンの分解を促進するとともに、エラスチン線維の弾力を失わせるように変性させることが報告されています。シワの形成を防ぎ、健常な肌を維持するためには、紫外線などのダメージを受けた線維の場所まで、必要に応じて線維芽細胞が移動し、コラーゲン線維やエラスチン線維の産生、修復を行うという恒常性の維持メカニズムが重要であると考えられています。
 ナイアシンアミドやトラネキサム酸などのアンチエイジング成分は、シミやシワなどの光老化を防ぐために開発されてきました。しかし、その研究の多くはコラーゲンなどの代表的なタンパク質の産生量の変化やヒトの見た目に着目したものであり、組織の恒常性維持に重要な、細胞の形態や動きに着目した研究はほとんどありませんでした。
 そこで、化粧品に使用されるアンチエイジング成分が細胞の形や動きに対してどのように作用し、効果を示すかを調べました。細胞の形を立体的に捉えることができる位相差顕微鏡を用いて、タイムラプスイメージングを行い、アンチエイジング成分を加えた際の線維芽細胞の変化を解析しました。タイムラプスイメージングとは、数秒や数分など一定の間隔で連続的に画像を撮影し、観察対象の動きといった長時間の変化を圧縮して動画として再生する撮影手法です。

ナイアシンアミドとは?

  • 水溶性のビタミンB3です。
  • メラニンの表皮細胞への受け渡しを防ぐことで、シミに対する抑制効果を有するアンチエイジング成分です。

トラネキサム酸とは?

  • 炎症性物質プラスミンの活性化を防ぐことで、シミ予防効果を発揮するアンチエイジング成分です。
  • 肝斑の治療薬としても知られています。

3. アンチエイジング成分の細胞の形態・挙動に対する作用の評価

概要

 真皮の線維芽細胞に、シミやシワなどの光老化に対する効果が知られているナイアシンアミド、トラネキサム酸を加え、位相差顕微鏡で24時間にわたり20分間隔で撮影を行いました。その後、得られた画像から細胞の形や動きを解析しました。

方法

① 線維芽細胞をプレートに播種し、アンチエイジング成分のナイアシンアミド・トラネキサム酸を添加する

② 位相差顕微鏡(Holomonitor)にて、タイムラプスイメージングを行う


③ 細胞の形を捉え、動きを追跡する(図2)。

図2:細胞の形態、挙動の追跡(イメージ)

結果

 一般的に培養状態では、小さくて厚みのある細胞が若い細胞 、大きくて平坦な細胞は老化状態に近い細胞と考えられています。そこで、ナイアシンアミドとトラネキサム酸が、細胞の形態変化にどのような影響を与えるかを解析しました。
 横軸を体積、縦軸を細胞の厚みとしてプロットした結果を図3に示します。その結果、ナイアシンアミド単体およびナイアシンアミドとトラネキサム酸を組み合わせて添加した細胞では、体積が大きく、平坦な細胞の割合がコントロールの細胞と比べて減少していました。つまり、老化した細胞を除去し、細胞の若返りを促している作用があると考えられます。

図3:ナイアシンアミドによる老化細胞の除去作用
各成分を線維芽細胞に添加し、24時間経過後のイメージングデータから細胞の体積と厚みを測定した。細胞の体積が大きく、厚みが薄い枠内の細胞集団を老化細胞と定義し、その割合を測定した。

 次に、細胞の挙動を解析しました。各成分添加後24時間の細胞の移動速度を算出したところ、トラネキサム酸単体あるいはナイアシンアミドとトラネキサム酸を組み合わせて添加することで、移動速度が高まっていました(図4)。また、ナイアシンアミド単体あるいはナイアシンアミドとトラネキサム酸を組み合わせて添加することで、コントロールと比べてより早く細胞が一か所に集まるように移動しており、一方向に整列しているような様子が観察されました(図5)。

図4:トラネキサム酸による細胞遊走促進作用
トラネキサム酸を線維芽細胞に添加し、イメージングデータを24時間取得した。任意の細胞を10個以上選択し、24時間の移動距離、速度、方向性を解析した。上記グラフは平均移動速度を示している。
図5:ナイアシンアミドによる細胞極性の制御
細胞骨格のタンパク質であるF-Actinを染色した。

考察

 本検討により、アンチエイジング成分が細胞の形態や挙動に影響を与える可能性が示されました。

 ナイアシンアミドを添加した結果、大きくて平坦な形態の老化細胞が減少しました。これは本成分が細胞内のエネルギー産生経路を活性化させ、抗酸化作用や抗炎症作用を発揮したためであると考えられます。一方で、トラネキサム酸添加による細胞の移動促進効果や、老化細胞に対する作用、生体などの3次元組織の状態での挙動変化については更なる検討が必要であると考えられます。

4. まとめ

 ナイアシンアミドは細胞の若さを保ち、トラネキサム酸は細胞の遊走能を高めるという結果が得られました。シワの予防・改善効果を発揮するためには、皮膚中に存在する細胞の老化を防ぐこと、そしてダメージを受けた部分へ細胞を供給してコラーゲン線維の形成・再構築を促すことが重要であると考えられます。ナイアシンアミドは、すでにシワ改善効果が知られていますが、これら2成分を組み合わせることで、より適切なシワ改善効果を得られると推察されます。本研究成果を今後の製品開発へと応用してまいります。

発表先

1)第35回 国際化粧品技術者会連盟学術大会2025(IFSCC France – Cannes Congress 2025):ポスター発表